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鎌倉散策(第84話)亀ヶ谷坂切通しから建長寺  このエントリーをはてなブックマークに追加 このエントリー参照しているはてなブックマーク このエントリーをdel.icio.usに追加

鎌倉には、切通しと呼ばれる、山や丘を切り拓いて造った道がある。

特に、極楽寺、大仏坂、化粧坂、亀ヶ谷坂、朝比奈、巨福呂坂、名越の切通し
は、有名で、俗に「七口」とも言われている。

三方を山に囲まれ、もう一方は海に面した、「天然の要塞」鎌倉を支えたのが、
この「七口」。敵の侵攻から鎌倉を守る重要な軍事拠点であり、北条氏滅亡の
折、この七口を巡る攻防、で、最後の、そして最も熾烈な戦いが繰り広げられ
た。

夫々の切り通しは、面白いエピソードを持っている。例えば、名越切通しは、ヤ
マトタケルノミコトが東夷制圧する際に通ったとされる。また、化粧坂は、平家
の武将の首を化粧して実験した場所であったことに因んで、名付けられたとの説
もある。

この日曜日に、訪れたのは、亀ヶ谷坂切通し。この坂を登ろうとした亀が、余り
の傾斜に途中みなひっくり返ったという故事に因んだ名前だ。

実際のところ、俺もマーメイドもひっくり返りそうになる位、傾斜はきつい。

道の両脇には、山がせりだし、3,4人横に並べば一杯になりそうな細い坂が、そ
の間を軽く蛇行しながら続く。足元には、細かい苔やシダが茂っており、少し湿
った涼風が心地よい。見上げると、鬱蒼とした緑の隙間から僅かながら陽の光が
差し込んでいる。

深呼吸をする。子供のころには、お馴染みだったのに、忘れて久しい山の香りが
する。初めて歩く道なのに、とても懐かしい気持ちになる。

ゆっくり、ゆっくり、だらだらと話しをしながら歩いて行く。

北鎌倉到着。建長寺に向かう。

建長寺は、鎌倉五山第一位の臨済宗建長寺派の大本山。 建長5年(1253)北条
時頼が蘭渓道隆(らんけいどうりゅう)を開山として創建した、わが国最初の禅
の専門道場。現存する建物は江戸時代以降に再建または移建されたもの。

寺が星の数ほどある鎌倉だが、最も広く、最もスペクタクルなのは、この建長寺
ではないかと思う。総門、三門、仏殿と一直線に並ぶ伽藍の周囲を10の塔頭寺
院が取り囲む。 仏殿の天井には、勇壮な龍が踊っている。

建長寺の横には、男子高がある。運動部のグラウンドは、建長寺の
中を通って、更に山の中。この、国宝と重要文化財で埋め尽くされた敷地内を、
猛烈ダッシュを繰り返している。

自然と歴史に恵まれた環境で青春時代を過せるのは、羨ましい限りだが、そ
の幸せに気づくのは、恐らく卒業した後なのだろう。

建長寺内を奥へ奥へと進む。一年中肝試しが可能なくらい、鬱蒼とした佇まいの
中細道が石段のたもとまで続く。

この石段は、約250段はあり、登りはじめて1~2分で、登ろうと思ったことを後
悔した。息も絶え絶えに、最後の20段。上り詰めれば、半僧坊(はんそうぼ
う)。斜面に、恐ろしげなカラス天狗の像十数体が、半僧坊を守護するかのよう
に、並んでいる。

半僧坊は、1384(至徳元)年静岡県の方廣寺(奥山半僧坊)開山の無文に弟子入
りし、忽然と姿を消したという高い鼻に乱髪、白衣、赤い顔の半僧坊に由来す
る。

1890(明治23)年建長寺中興の僧といわれる霄貫道(おおぞらかんどう)が、あ
る夜白髪の老人と山中で出会い、その翁が「私を関東のいずれか清浄な処に招い
てくださるなら、その処いよいよ栄え、ありがたいことが絶える事がない。」と
告げ、フッと姿を消す夢をみた。この老人が、半僧坊で、建長寺の鎮守としたと
のこと。

この半僧坊から見える景色が絶景で、鎌倉を一望でき、相模湾を臨み、更に天気
の良い時は富士山も見ることが出来る。生憎、この日は、富士山は、雲に隠れて
みることができなかったが、遠くにキラキラ光る海をみることができた。

2時近くにマンションを出て、一時間足らずで、半僧坊の高みに立つ。この景色
も、眺めている自分も、とてもリアリティが感じられず、不思議な気分だ。

日夜、雑事に忙殺されている。喜劇といえば喜劇、悲劇といえば悲劇、色々な歪
み、エゴとコンプレックスと愛憎と、その他色々悲喜交々で、もみくちゃになり
ながら、脳だけは、オーバーヒート気味にフル回転している。

遥か下界を見下ろしている俺は、そんな慌ただしさとは、全く無縁だ。

ただ静かに、ぼんやりと、何も考えずに、遠くを見つめるだけだ。どちらも、自分だが、
自分ではない。「俺って…何?」と尋ねると、「何だったかねえ?」とマーメイ
ドは、笑いながら応える。

北鎌倉に、流れる時間は、とても緩やかだ。

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