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ドーダ学  このエントリーをはてなブックマークに追加 このエントリー参照しているはてなブックマーク このエントリーをdel.icio.usに追加

俺は、2000年から、ウェブ業界で働き始めた。

発展途上の業界だけあって、色々な人間が棲息する。かなり不可思議で、俺の首が45度に曲がったハテナの状態で、元に戻らないのは、「XXを知っている」という表現を多用する人々である。

「XX社の△部長は、よく知っています」 「はい」
「△社の〇〇取締役は、知っています」 「ええ」
「□社のXX社長は、知っています」 「・・・」

ウェブ業界の著名人を「知っている」と言いたいだけで、中味はなかったりする。何のこっちゃ。

先日、「ドーダの近代史」(朝日新聞社 鹿島茂著)を読んで、つまりこれは、俺に、「お手本ドーダ」をかましてきた訳ね…と得心がいったところだ。

鹿島氏(共立女子大教授)が、東海林さだお氏の提唱する、「ドーダ学」にそって、日本の近代史を、ぶった斬っている。

「ドーダ学」は、人間の行うコミュニケーションの殆んどは、「ドーダ、おれ(わたし)は、凄いだろう。ドーダ参ったか?」という自慢や自己愛の表現であるという観点に立ち、社会のあらゆる事象を分析していこうとするアプローチである。

鹿島教授は、「ドーダ」とは、「自己愛に源を発する全ての表現行為」と定義している。この表現形式には、色々なパターンがある。

ストレートなドーダは「陽ドーダ」、ひねくれたものは「陰ドーダ」。外向きのドーダは、「外ドーダ」、自らの内に求めるのを「内ドーダ」。

先ほどの、「俺は、ウェブ業界での著名人を知っている」というのは、「ウェブ業界の有名人は偉い、偉い有名人を知っている俺も偉い、ドーダ参ったか、もっと俺のことを崇め奉れ」という自己愛の表現で、「外ドーダ(お手本ドーダ)でかつ陽ドーダ」ということになる。

「最近、忙しくて、寝てないんだよな」というのは、「寝ないで働いている俺って、凄くない?ドーダ参ったか?」という表現であり、これは「内ドーダの陰ドーダ」(忙し自慢ドーダ)。パンツみせているヒップホップなニイチャンは、「トレンドにのっている俺って、とってもイケテル、ド~ダ」ということかしら。

世の中、よくよく見れば、「ドーダ」で溢れかえっている。

著者のいうには、自己愛とドーダの現れ方は、時代によって大きく異なる。ある時代では、アカラサマに、ある時代では、非常に微弱に。

日本の歴史で、このドーダが最も強烈なのが、幕末から明治にかけての日本の近代史であり、そのドーダエネルギーの化身ともいえるのが、西郷隆盛であり、第二次大戦の敗退を生み出す日本人の精神性を支配するに至った…というのが粗筋。(この本は、ハードカバーで400ページ近くある大作なので、詳細は省略)

では、現代日本はどうであろうか?KYなんていうのは、その場の雰囲気関係なく、無邪気に「陽ドーダ」を表現してしまった事象だろう。先ほどのお手本ドーダというのは、「外ドーダ、陽ドーダ」で非常に直球。ドーダの観点からすると、非常にわかり易い。

ただ、時代の基調としては、強烈な「内ドーダかつ陰ドーダ」の時代であるように思う。バブル期の「こんなに金もって、こんなにブランド買い漁った俺って最高。ド~ダ」みたいな、感じは、影を潜めている。(バブル期の直裁さは、戦国時代の武将が、豪華絢爛な鎧甲冑を纏い、戦場で我こそは~と名乗りをあげるレベルに近く、牧歌的ですらある)

現在、自己愛は、暑苦しいものとされ、嫌われ、否定される傾向が強いように思える。

「ドーダの日本史」で引用されている17世紀フランスのラ・ロシュフーコの自己愛についての箴言:

自己愛は天下一の遣リ手をも凌ぐ遣り手である
自己愛の国で人が発見したことがどれほどあるにとしても、まだそこには未知の土地がたくさん残っている。(「ラ・ロシュフーコー箴言集」二宮フサ訳、岩波文庫)

どんな人間でも自己愛は存在し、どのよう表現にも必ず表れざるを得ない。

現在日本に支配的な、「普遍的な自己愛の否定」という矛盾に満ちた姿勢は、自己愛の表現をより複雑なものに変えていかざるを得ない。
捻じ曲がった「陰ドーダ、内ドーダ」を理解するのは、非常に難しい。個人間のコミュニケーションがどんどん困難になり、相互理解を非常にエネルギーを要する苦行にしているのではないか。フェイスTOフェイスのコミュニケーションを回避し、SNSなどで展開される、バーチャルでライトな感覚の擬似コミュニケーションに逃避していくメンタリティの背景には、複雑な「陰ドーダ、内ドーダ」があるというのは、穿ち過ぎか?

ただ、友情とか愛情とかを、育みにくい時代なんだろうなあ…というのは、何となく中っているような。

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