« 中国製ギョーザとは、全く無関係のギョーザの話し | メイン | 新学習指導要領案 »

カモメになったペンギン  このエントリーをはてなブックマークに追加 このエントリー参照しているはてなブックマーク このエントリーをdel.icio.usに追加

先日、「カモメになったペンギン」という本を読んだ。

著者は、ジョン・P・コッター。ハーバードビジネススクール史上最年少で教授になった、「リーダーシップ論」の権威。といっても、難しい学術書ではなくて、童話。

定住生活をしていたペンギン達が、定住場所である氷山が溶け始める危機に瀕した。さて、この危機をペンギン達はどう乗り切っていくのか…という物語。

詳細は、省くとして、この本には、あらゆる企業が、危機に瀕したとき、どのように変革を成し遂げる方法論が寓話の形式を借りて述べられている。

そのプロセスは、次の八つに分かれる。
1.危機意識を高める 2.変革推進チームをつくる 3.変革のビジョンと戦略をたてる 4.変革のビジョンを周知徹底する 5.行動しやすい環境を整える 6.短期的な成果を生む 7.更に変革を進める 8.新しい文化を築く

このプロセスの中で、最も強調されているのは、2の変革推進チームをつくることだ。実は、この本では明示的に書いていないが、2ができたときに、3~8の成否はある程度みえてくる。何故なら、3~8を実施し、推進するのが、このチームだからだ。

変革が成功するかどうかは、実は、半分以上は運次第だ。(と、断言するとコッター教授に怒られそうだが)たとえ、素晴らしいチームを作ろうが、彼らが、完璧なビジョンと戦略を構築し、それ周知徹底し、実践できる良い環境を整えたところで、短期的な成果を生むことができるかどうかは、誰もわからないのだ。

「危機」と言えるようなステイタスというのは、これだけのプロセスをもって、組織全体を問題に向かわせないと解決できない厳しい状況を意味する。だから、そうは簡単に結果をだすことはできない。

全ては結果である。短期的成功を懐疑的な人間の前で示さない事には、<7.更に変革を進める 8.新しい文化を築く>など出来はしないのだ。

天草四郎は、水上を歩いて渡ったり、空中から鳩を取り出すという奇跡を演じ、メシアとしての絶対的信頼を勝ち得た。彼の場合、勿論奇術のネタがあったわけだろうが、実経営にそんなものはないので、運の強さが必要。言い換えれば、偶然性は、変革プロセスの成否に、8つのプロセスの遵守以上に大きなファクターであると思うのである。いい占い師を紹介しろ…という感じだ。チャーチルもヒトラーもお抱えの占い師を持っていたことを観ても、案外そんなもんだ…という感じがする。人間ができるのは、成功確率を最大限に高める方法論を実践すること、そして後は祈ること位だ。

そういうわけで、俺はいつも、この「経営学」というものに、スピリッチュアルカウンセリングっぽい感じを持ってしまうのだった。

さて、問題の変革チームだが、この物語では、好奇心と観察力にあふれた理知的な男性、行動力と実務能力のある女性、人事の才と調整能力にたけたリーダー、コミュニケーションと癒しのタレントをもつ若者、論理的で聡明だが他者に対する興味の薄い専門家の5名からなる。
そして、彼らに共通するのは、危機感と組織に対するコミットメントだ。

抜群の調整能力をもったカリスマ的リーダーに率いられた、このタレント集団は、問題を上手く解決し、めでたし、めでたしのハッピーエンドになる。

しかし、実際には、カリスマは、訳のわからないことを言い、自分勝手に行う(綺麗に言えば、信念をどんな時でも貫くっていうか)からこそ、カリスマなのだ。調整能力に優れた「カリスマ」というのは、ロジカルな長嶋茂雄みたいなもので、そんな人はいないのだ。

また、唯、調整能力が高いだけでは、こんな異能集団を統率するのは不可能だ。彼らが、ひれ伏すくらいの強烈な何かがないと~やっぱ教祖と弟子みたいな関係かしら。

経営学が、本当に社会科学といえるのか疑わしいと思うのは、仮説と検証が厳密な意味で行われておらず、要は成功事例と失敗事例を、ケーススタディと称して後付けするという、ある種の欺瞞性に満ちているからだ。そりゃ、結果知ってりゃあ、何とでも尤もらしい理由はつけられるだろう…と噛み付きたくなる。どんな組織においても、また同じ組織においても、時期によって、完全に同じという環境はない。常に現実は動いている。であるから、どんな尤もらしい法則性を過去の事例から抽出したとしても、再現性を検証することはできないのだ。経営学者にとっては、都合のいい事に。

批判めいたことばかり書いたが、俺がこの本とこの本で説明されている理論を意味がないと言っているかというと、そんなことはない。ここで書かれている理論は、成功確率を高めるための、フレイムワークとしては、正しいし、問題解決のために、状況に応じてアレンジして適用することは効果的だ。

ただ、正しい適用方法は、ここで書かれているプロセスを、チームではなく、独裁者が、熱狂と恐怖を武器に行う事まで、その範囲に含まれてしまうというのが、現実だということだ。織田信長、アレクサンダー大王、カエサル、始皇帝、チンギスハン、そしてヒトラー…。彼らが、チームを組んで合議制で、変革を成し遂げたのだろうか? 逆に、チームを組んで、変革を成し遂げ、危機を脱した例って、この寓話にでてくるペンギン以外に、ご存知でしょうか?

流石に、民主主義を守る保安官であるアメリカ合衆国の経営学者が書いた本だけあって、民主主義的チームが、危機を救うというシナリオになっているが、極度の危機的状態に対応するためには、最も不適な体制であることは、歴史が証明しているのではないか。 勿論独裁的リーダーに率いられた集団が、継続した成功を収めたケースも、寡聞にして、存じ上げないのではあるが…。

この本が童話という形式を取ったのは、確かに、この変革プロセスをわかりやすく伝える為ではあるが寓話であるからこそ許される、一種のファンタジーに過ぎず、寓話でなければ、そのリアリティの欠如が露呈してしまうからかもしれない。

トラックバック

このエントリーのトラックバックURL:
http://mvt.fresheye.com/mt/mt-tb.cgi/838