帰還
取締役会を終え、納会で乾杯。オフィスを飛び出し、東京駅へ。
新幹線の長いホームに一箇所だけある喫煙所にダッシュ。タバコを二本立て続けに吸って、列車に滑り込む。
オフィスをでたのが、17時15分。実家のドアを開けたのが、日付変更線直前。6時間。いつもながら、故郷は遠い…物理的にも、精神的にも。
東京~小倉~門司~下関と乗り継いで、ようやく。
門司~下関間の景色は、暗く、寂しい。6時間前のイルミネーションで街中ピカピカ、カラフルな銀座から軽いグラデーションの後に、絶望的なモノトーンの世界。点在する灯。鈍い色をした壁だけが目立つ、殺風景な建物。人気のない道路。物質はないのに、濃密な濃いグレイ。
下関駅の前には、高校生くらいの少女が、独りしゃがみ込んだまま、動きを止めている。何故、そこに居るのか、誰かを待っているのか?冷たい小雨が降り続く中、空ろな視線を足元に向けたまま。時がゆがみ始める。
彼女の前を横切って、タクシーに乗り込む。「お客さんは、どこから?東京から?もう何年いるの?12年。よく頑張るね。昔6年間新宿にいた。独りが寂しくなって、体がイカレテ、こっちに帰ってきた。東京はあわない。田舎者は食い物にされる。人間扱いされない。キロ200円で働かされて、家畜の餌を食べて。友達が居なくて、独りで、体がイカレテ…。」
運転手の話は、止め処なく続く。何かの呪文のように、低く、くぐもった声で。「独りぼっちで、寂しくて、体がイカレテ…」
風呂に入り、冷たいミルクを飲み、長い時間をかけてタバコを吸った。
とにかく、何とか、やっとの思いで…我帰還セリ。

