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刺青  このエントリーをはてなブックマークに追加 このエントリー参照しているはてなブックマーク このエントリーをdel.icio.usに追加

歳をとっても、人見知りは中々克服できない。

親しくなると、図々しいくらいなのだが、そこに行き着くまでに時間がかかる。特に、いつも悩むのは、視線の合わせ方。

目は口ほどに物を言い...というとおり、目が表現するものは大きい。余り、何につけても自信のない俺としては、相手の目を見ながら話すなんて、とても恥ずかしくて出来ない。

「話しをする時は、相手の目をみて...」などと、よく言われる話だが、初対面だったり、余り親しくもないのに、そんなことは、出来んだろうが...といつも言い訳しつつ、視線は泳ぎっぱなしである。初対面の印象が悪いのは、そういうところにも、影響があるんだろうなあ...と反省する。でも、中々顔さえ、見ることができない。(かつて、「金田さんは、自分の目を見て話しをしないのだが、嫌われているのではないか?」等と言われた事があったが、それは,全くの誤解であることを、ここで付け加えたい)

世の中には、「話しをする時は、相手の目をみて...」というのを、忠実に実践されている方もいて、なおかつこのタイプは、対人の距離感が短い(あくまで物理的に)傾向が強く、いつも閉口する。

俺は、半径1.5メートル内には、誰にも入って欲しくないタイプなのだが、40~50CMまで近づき、しかも正対して、こちらの目を凝視しながら、お話をされたりする。そんなに、近づかなくても、充分話は聞こえるよって、心の中で言うのだが、そんなことは忖度することなく、お構いなしにドンドン近づいてくる。本当にドキドキするっていうのに。

こういう場合は、バックステップしたり、左右どちらかに、体をずらすなりして、視線をかわし、かつ距離をとろうとするのだが(ボクサーか)、こちらの動きにあわせて、先方も位置を変えたりして、正対を崩さなかったりする。
真上からみていると、二人でくるくる廻っている、かなり可笑しい光景が展開しているに違いない。

先日、マンションのエレベータに、20代後半の女性が乗り込んできた。栗色に染めた髪をアップに、薄青色のシャツのうえに、夏っぽい、白地にイエローの細いストライプがはいったノースリーブの上着をきている。彼女は、エレベーターの出口側に、俺は奥に立っていた。

2人だけが乗っていて、彼女は、出口側を向いているにもかかわらず、極めて強い視線を感じる。何か変だ、自意識過剰なんだろうか?...(適性検査で、「誰かにいつも見られていると感じる」などという質問があるが、そういうことか)などと訝しくおもいながら、見るとはなしに、彼女の背中をみた。

背中に「それ」はあった。薄青色のシャツと見えたものは、実際には、シャツではなく、刺青。

アムロが、腕に息子の名前のタトゥーを入れたり、タトゥーシールなどがあったり、最近では刺青といっても、かなりお洒落なファッションアイテムというイメージだが、俺の目の前の彼女(いや、「姐さん」と呼ぶべきか?)の背中に広がるものは、そういう生易しいものではなかった。

かつての東映映画でお馴染みの、仏教関係をモチーフにしたもので、大胆に露出した背中に、「それ」はあった。大きく描かれた、観音様の顔が。

切れ長の瞳が、俺を見つめている。観音様の目に吸い込まれるような感じで、視線を外す事ができない。時計のカチカチ言う音だけが頭の中に響く。

突然、エレベーターの扉が開いた。彼女は、髪留めを取る。長い髪が背中を覆った。彼女は、エレベーターの外に足を踏み出す。何かに凝視されている感覚は、嘘のように消え去った。

ちょっと振り向いた彼女の横顔は、何処にでもいるOLという感じで、特に美しくも、醜くもなかった。鬼龍院花子や緋牡丹お竜のようなオーラとは無縁の、平凡な横顔。

他者をじっと見つめることは、自分を曝け出すことでもある。人の目を凝視し続けることが出来る人は、強靭な精神をもっているに違いない。

背中に彫った観音様は、誰かを常に見つめている。なにせ、絶対的存在なのだから、人見知りをしたり、恥ずかしがったりすることもないだろう。あんな重たい非日常的なものを背負って、彼女は、会社で売上伝票を整理していたり、平凡な日常を過ごしているのだろうか?辛くなる時は、ないのだろうか?などと、色々なことを思いながら、俺もエレベーターから外に出た。

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