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藤原伊織  このエントリーをはてなブックマークに追加 このエントリー参照しているはてなブックマーク このエントリーをdel.icio.usに追加

純粋さ…というのは、俺にとって,非常に重要な価値判断基準。

年齢を重ねていくことは、経験を積むことであり、現実と上手く折り合いをつけていくこと。現実は、奇麗事だけではない。絶望、失望、裏切り、挫折、葛藤、妥協、欺瞞、偽善、保身…。

これまで色々な人と会い、時間を共有してきたが、ちょっとした瞬間に、その人の過去の重さ、歪み、染み付いたもの…などに気付くことがあり、その度に、ちょっと目を背けたくなるような、見てはいけないものを見たような、複雑な気持ちになる。

そして、そういった場合、俺は一体どんな顔をいつもしているんだろうと、心配になる。笑った顔は下卑ていないだろうか? 何か、濁った表情はしていないか?それを、周囲の人に認識されていないか?

純粋さをキープし続けることは、難しい。

俺の叔父は、非常に苦労をし、辛酸を嘗め尽くしているにもかかわらず、寡黙で、赤ん坊のような笑顔をみせる男だった。

父親が死んだ時、色々なトラブルがあり、葬式の後の会食は、非常に気まずい雰囲気が漂っていた。不快気な表情を浮かべ、料理に箸もつけない人物に、叔父は、蟹の足を自分の口で噛み切って、食べやすいように身を取り出して、無言で渡した。その時、遺族である俺たち家族に対する気遣い、無骨な優しさ、邪気の無い笑顔が、そこに居合わせた人々全員に、じわっと伝わっていくのを感じた。

蟹の足を噛み切って渡す…たったそれだけのことで、とげとげしいわだかまりは溶けていき、雰囲気は嘘のように和み、故人の思い出話などを楽しく、そしてシンミリと皆語り合った。

あの無邪気な顔で、蟹の足を噛み切るのは、反則だよな…と思い出すたびに呟きながら、必ず泣けてくる。その当時70歳位だった彼は、それから数ヶ月後、自動車事故で亡くなった。

藤原伊織の作品の主人公(『テロリストのパラソル』、『ひまわりの祝祭』 『てのひらの闇』 など)は、無頼で、飲んだくれで、シャイでしょうがない癖に、誠実で、優しく、ピュアであり続ける強さを持った男達だ。そして、その姿は、著者である藤原伊織に重なる。

俺は、彼らのことが、たまらなく好きだし、もっと多くの作品で彼らに出会いたかった。

ピュアであり続ける為には、現実に真正面から向き合うタフさが必要だ。苦労からポジティブなエッセンスだけを抽出し、残りカスは完全に忘れ去る強さが不可欠だ。

叔父も藤原伊織も、色々な事を俺に教えてくれた。でも、もう会えないのは、本当に悲しい。


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